イン・アメリカ 3つの小さな願い事
(In America) [2003.米] ☆☆☆(+☆、ボルジャー姉妹のあまりの可愛さに)
監督:ジム・シェリダン
STORY:アイルランドからN.Y.へ。4人家族がやってくる。売れない俳優ジョニーと妻サラ、幼い娘クリスティとアリエル。ボロボロのアパートで始まった、ささやかだけど幸福な生活。しかし、家族は不幸な事故がきっかけで小さな息子フランキーを亡くした過去に苦しんでいた・・・やがてサラが再び命を宿し、同じアパートで不治の病に蝕まれた画家マテオと出会ったとき、彼らの生活は変わり始めた・・・監督自身の体験をふたりの実の娘とともに脚色。ファンタジックでヒューマンなある家族の物語。
CAST:パディ・コンシダイン、サマンサ・モートン、ジャイモン・ハンスゥ、サラ・ボルジャー、エマ・ボルジャー
「小さな子を失い、希望を失って移住してきた家族が、貧乏な暮らしのなかで」「人と出会い、個々が成長し、やがて希望を取り戻すまで」のお話。・・・前半に比重が置かれているかと思いきや、実は後半がこのストーリーの全てといってもいい。そう、この作品、実は普遍的な家族の物語。決して遠い話じゃなかった。
何と言っても「お利口さん」で、静かに自分のすべきことを考え続けているお姉ちゃんクリスティと、天真爛漫で全身から生命の喜びがわき出しているような妹アリエル(「Why?」という可愛らしい声が耳から離れなくなってしまう!)の二人姉妹が放つ奇跡的な輝きがこの映画の魅力だろう。
それに・・・個人的な話だが、2人姉妹で育った私は、ものすごく姉の必死さが実感されてしまったのだ。私は不器用な子どもだった。とにかく真面目でワガママも少ないが、口は達者で、納得しなければ動かない、イマイチ掴み所のない子。一方で妹はまっすぐな性格で、愛されるのが得意で、無邪気だった。そんな妹がどこまで私を必要としていたかは分からないのだが、とにかく妹を守るのは私だ・・・、と幼い頃から私は真剣に思っていた。妹が怒られれば代わりに謝ったり、つまらなくても一緒に遊ぶのは義務だと信じていたり。(これって一種の長女体質なんだろうなあ・・・)なものだから、珍しく感情移入。どんなシチュエーションでも「私はお利口さんで妹のそばにいなきゃ」という強いハートのお姉ちゃん、クリスティの気持ちがせつなくてせつなくて。
彼女が澄んだ声で歌う「デスペラード」に乗せて、家族の日々が描写されるシーンはこの映画の最も美しい瞬間といえるだろう。絶望から立ち直れずにいる両親に、不思議な絵描きのマテオに、彼女は歌う。「絶望した者よ、どうか迷いから目覚めて。愛する人に心を開いて」切なくて、ひたむきで、なんともホロリとさせられる。
ああ、それに対して、なんてその両親は無邪気なんだろう。まるで陸上選手のような筋肉質な手足の母親らしい逞しさが印象的なサマンサ・モートン、気弱な笑顔が特徴で地味さがハマリ役のパディ・コンシダイン(『24アワー・パーティ・ピープル』のロブ役だったとは・・・全然気づきませんでした)、役者はふたりともいいのだが、こんな親であってほしくない。せめて、娘たちの力を借りずに立ち直る瞬間が描かれていたらなあ・・・と思ってしまった。自分たちの悲しみから抜け出せないのは分かるけれど、クリスティのあの言葉まで、彼女がどんなに家族を守ってきたかに気づいていないなんて!というところで、自分が長女であったが故に姉に感情移入しすぎて両親の子どもっぽさが歯がゆくて・・・イマイチ乗り切れなかった部分はあるのだが、とにかくそのぶん、この姉妹のあまりの健気な愛らしさには泣けてしまった。全身から「あたしたちがしっかりしなきゃ」という強い思いを感じさせる二人が愛しくてたまらない。演じたのは実の姉妹でもあるサラとエマ。ふたりのとびっきりの笑顔と出会えただけでも、この映画は十分な価値があると思う。 (2004.3.20)
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