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『は』行の映画。

■ハイ・フィデリティ ■パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち  ■ハッシュ!  

■ピアノ・レッスン  ■ひかりのまち   ■ファイトクラブ      ■フォロウィング    

■ボウリング・フォー・コロンバイン  ■僕たちのアナ・バナナ   ■ポルノスター

ハイ・フィデリティ (High Fidelity)  [2000.米]   ☆☆☆☆ 

監督:スティーブン・フリアーズ

STORY:ロブ・ゴードン。音楽オタク、30代、独身、特技・テープ編集。・・・要はダメ男。中古レコード・ショップをやってる彼は女の子に振られてばかり。でも現在は頭もよく可愛い彼女ローラと同棲中で、上手くやってた。なのに・・・ある日、ローラは家を出ていってしまう。これまでの振られ経験を思い返し「ローラなんて辛い別れTOP5には入らないやい」と強がりつつ、凹みまくるロブ。好きなレコードに囲まれ、色々事件はあったけど楽しくやってたはず。何でだ?思い悩んだ末、ロブは何をとち狂ったのか過去に経験した「別れTOP5」の元彼女たちに、自分が振られた理由を聞いてまわる・・・ニック・ホーンビィのベストセラーの映画化作品。

CAST:ジョン・キューザック、イーベン・ヤイレ、トッド・ルイーゾ、ジャック・ブラック、リサ・ボネット、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジョーン・キューザック、ティム・ロビンス

あ、初めに断っておきます。ジョン・キューザックに弱いです、私。ご贔屓俳優ランキングでは惜しくもTOP5からは洩れてますが、次点にきてます。ランキング入りが近いかもしれません、なぜか今、赤丸急上昇中。

この作品を見て、印象に残ったことTOP5。
1.ジョン・キューザックのどこまでもラヴなダメ男ぶり。なんでこの人はこんなにチャーミングなんだろう。モサっとしたダサさは全開、お洋服の趣味の悪さったらないし、音楽だけしか能がなく、浮気癖はあるし、ホントにどーしよーもないモラトリアム男。母親に「いつもあんたは付き合って、同居して、別れる!」って泣かれてしまうほどのダメっぷり。別れた彼女と男の関係に妄想を膨らませ、悶絶するアホさ。・・・でもラヴなんだな。こんなに後ろから抱きしめられたい腕の持ち主はいない。別れられない彼女の気持ち、よく分かります。
2.音楽の楽しさ。この作品は結局は「音楽と男子」の映画。結構音楽好きな私で分かったネタは4分の3くらい、っていうギリギリ路線なんだけど、(つまり、マイナーとスレスレのメジャー、もしくはその逆。そんなにマニアックではないんだけど、音楽好きが一番好きそうなゾーンをツいてくる)このセンスはなかなか。ベル&セバスチャンとか、ジザメリのサイコ・キャンディとか、好きな人にはBINGO!でしょう。あの店、行ってみたいなあ。トッド・ルイーゾ&ジャック・ブラックの変テコ店員たちにも会いたいな。
3.カメラに向けて喋る、というスタイルの面白さ。このパターン、「24Hour Party People」でも使われてたなあ。(要はあれも「トニー・ウィルソンの言い訳」ですからね)この手法、やっぱり「言い訳しまくる」っていうキャラクターにはぴったり。
4.小デブのジャック・ブラックの甲高い声&半ケツ。・・・コメントはいらないでせう。
5.ティム・ロビンスのよく分からない役柄&むやみなデカさ。・・・これも、コメントする必要はないでせう。

ということで、このなかでダントツの1位でよかったのがジョンのキャラクター。逆に恋愛話が中心に置かれているんだけど、うーん、女子陣の印象は薄いなあ。あ、彼女の親友役で出ているお姉ちゃんのジョーン・キューザックはとってもいい。普段からあんな感じで弟を叱っているのでしょうか、ククク。
ともかく「30過ぎの冴えない中古レコード屋の音楽オタクがふと立ち止まり恋愛と人生を考え再生する」的な説教じみたお話では全くなく、ジョン・キューザックを介して「いい年した男子の世界」を楽しむ作品なのです、これは。とりあえず、こんなヤツでも人生は続く。フフフ。
って書いている間に、完全にジョンへの愛が芽生えてしまいました。・・・カメラ目線で私も言わなくちゃ。「ジョン・キューザック、君も好きな俳優TOP5入りだ。おめでとう。ウェルカム。」(2003.7.9)
 
パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち (Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl) [2003.米]  ☆☆☆☆

監督:ゴア・ヴァービンスキー

STORY:時は18世紀。カリブ海の英国植民地の港町で、提督の一人娘、勝気な美少女エリザベスがプロポーズを受けている最中に、コトは始まった。奇妙な一匹狼の酔いどれ海賊ジャック・スパロウが海に落ちた彼女を救うのだが、海賊であるという理由で捕えられてしまうのだ・・・しかしその夜、伝説の呪いの船「ブラック・パール」が街を襲い、エリザベスを誘拐。幼い頃彼女に救われ、身分は違えど彼女を愛している鍛冶屋のウィル・ターナーは、海賊を憎みながらも只者ではない気配を漂わせるジャックを牢から救い出し、その助けを借りて救出に乗り出す!

CAST:オーランド・ブルーム、ジョニー・デップ、キーラ・ナイトレー、ジャック・ダヴェンポート、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス

楽しかった!!もうこの一言で十分かもしれない。ホントに「カリブの海賊」してる。映画というよりも、アトラクションですね、これは。何も考えず、ただただご機嫌な気分で見ることが出来て、幸せ。そういう映画が時には大切だ。で、この作品がまさにそうなんだもの。活劇、剣、呪われた財宝、ドクロ、月の光、酒場、薄汚れたシャツとなびく長髪、海風をいっぱいにはらんだ海賊船の帆!うーん、どこまでもダークなロマンチックさ!大好きな世界だ。きっと小学校低学年の頃にこれを見てたら将来女海賊になる!って決めてただろーなあ(笑

キャストもハマってる。つーか、もうこのキャストの勝利としか言いようないんだけどね。ジョニー・デップの酔いどれ船長の格好良さと色気たっぷりの身のこなしは言わずもがな。微妙にヘロヘロした動きと普段の彼の役から想像もつかない饒舌さでジャック・スパロウという奇妙な海賊に魂を吹き込んでみせる。可愛いオーランド・ブルーム(決して美形じゃないんだけどチャーミング。意外に大人顔なのもポイント高い)とフレッシュなキーラ・ナイトレイ(ナタリー・ポートマン(かなり嫌い)そっくりだが、本家より健康美あり)、演技派ジェフリー・ラッシュ(出過ぎず引きすぎずの絶妙な悪役ぶり)にいたるまで、とにかく演じる側も楽しそう。こういう役、やりたかった!!といわんばかり。そんなキャストに、このロマンチックな道具立てがあればもう、楽しむしかないでしょう!

って言っておいて何ですがこれ、決して大傑作じゃないです(笑)どーにもこーにも雑な構成、説明不足点の多さ、ディズニーらしさとも言い換えられる甘さは決して私の好みじゃない。ゴア・ヴァービンスキーって、決して上手い監督じゃないんだろうなー、と思う。脚本をなぞってるなあ、というレベル。
それでも、この嬉しさって、なんだろーなあ?例えば子どもの頃読んだ「宝島」(ジョン・シルバーに惚れてました。悪役なのに無茶苦茶しぶとくて色気あるのが好きでした)や「十五少年漂流記」(反逆的なドノバンが好きだったな。やっぱり善よりは多少ひねくれたものに興味があったわけですね、私)の高揚感に近い。
単純明快ななかの心地よさと、キャラクターたちのイキイキとした表情。子どもの頃を過剰に美化するのは嫌いだけど、小学生と同じ視点で楽しめたのは・・・正直に嬉しかったのだ。るるん。(2003.9.15)
 
ハッシュ! [2001.日本]  ☆☆☆☆

監督:橋口亮輔

STORY:ペットショップで働く心優しい(けれど十分俗っぽいところもある)ゲイの青年直也と、ゲイであることを隠している、誠実を通り越して優柔不断な会社員の勝裕。二人が恋人であることを偶然知った歯科技工士の朝子は、とんでもない相談を持ちかける。「付き合うとか結婚とかじゃなく、子供がほしいの。」 朝子が投げかけた波紋によって、彼らの「家族」と「人生」の模索が始まる。ゲイ・ムービーの先駆者、橋口亮輔作品。

CAST:片岡礼子、高橋和也、田辺誠一、つぐみ、斉藤洋介、深浦可南子、光石研、秋野暢子、富士真奈美

橋口監督の前作『渚のシンドバット』に印象的なシーンがあった。「私は、最低だから」という優等生の少女。彼女は、自分がマイノリティでないことにコンプレックスを抱いているのだ・・・このシーン、私はかつての自分を思い出して、泣きそうになった。心の襞を丁寧に見せることと、会話の自然さは橋口作品の特徴だ。そして基本的に「いいひと」も「悪いひと」も彼の作品には出てこない。それぞれが醜い部分を持ち、悩んでいて、卑怯で、それでも純粋にどこかで人を信じてしまう弱さとあたたかさを抱えている人間だ。
この作風は『ハッシュ!』でも変わらない。というより、彼の作品の集大成というべきかも。ゲイだからといって、障害者だからといって、みんな「いい人」なんて描き方はもちろんされてない。それぞれが俗物で、性格には問題がある。直也は「ゲイだから」という意識に縛られているし、勝裕は優柔不断の塊で、朝子にいたっては、常識が著しく欠如、煙草と男に依存しているような最低の女でもある。ゲイのコミュニティを賛美したりもしない。直也も勝裕も、正直ゲイ社会の話題が男とセックスと芸能界の話だけ、ってことにうんざりしている。いたって普通の家族の象徴、兄夫婦(光石研、秋野暢子好演)も彼らの生き方を否定するだけの役割ではない。それぞれに人生があり、価値観がある人間として描いている。
「皆誰かと一緒にいたい。その気持ちは変わらない。」「思ったように生きるのは難しい。けれど、やってみてもいいじゃない」・・・そう観客に丁寧に見せていくのが見事。
ただ、ストーリーに感じる違和感が最後まで続くところや(いかに言っても「父親になれる目をしてる」だけじゃ決定打がないでしょう)やっぱり微妙に最後がもたつくところが残るんだよなあ・・・その点さえ除けば、本当によく出来ている。

片岡礼子が素晴らしい。半端ない薄汚さと自堕落さ、不器用で怯えた感じ、「朝子」という人間の弱さと真剣さを剥き出しにした表現。結構美人だし(耳がアンバランスにデカイけどさ)これだけ表現力あるのに、今イチメジャーにならないのは何故だろ?(2003.5.10)
 
ピアノ・レッスン (The PIANO) [1993.豪] ☆☆☆☆

監督:ジェーン・カンピオン

STORY:19世紀のイギリスに住む失語症のエイダは娘フロラと共にニュージーランド南端の孤島へやって来た。しかし、唯一の財産であるピアノは悪路の為運ぶ事が出来ず突き放し海岸へ放置されてしまう。エイダは毎日ピアノを弾く為に浜辺へ向かう。土地の主ベインズはピアノを盾としエイダと関係をもつようになり、憎んでいた彼をエイダは強く愛するようになる・・・
ホリーはこの作品で1993年のオスカー主演女優賞獲得。アンナは助演女優賞を史上2番目に年少(最年少は「ペーパー・ムーン」のテイタム・オニール)で受賞し記録に残った。(完成した作品は、年齢制限があったため当人は見られなかったとか・・・)

CAST:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル、サム・ニール、アンナ・パキン

口を聞けないかわりにピアノで感情を伝えるエイダと彼女の唯一の理解者である娘、理解できないエイダを愛そうとして必死な夫、粗野で文盲のベイマン・・・ものすごく密度濃く、エロティックで激しい映画。言葉の代わりに手で語るドラマの描き方はなかなか印象的だ。エイダがベイマンに“ほころび”から脚を触れられるシーンの艶かしいこと!ベイマン役、ハーヴェイ・カイテルの短く切った爪と働く者の手の生々しさ。ピアノに触れるかのように体に指を這わせるエイダに当惑する夫(サム・ニール好演!「信じていたのに!」という怒り狂うシーンも「君を抱きたい」という切ない呟きも、困惑しきった表情がハマッている)。ベイマンと性的な関係を持つ羽目になったことで「ピアノ」の意味が変化していく。「抑圧された性」の象徴としてのピアノ。ベイマンに肉体を解放されることで、表情が変わっていくエイダ。ピアノは必要じゃない、必要なのは・・・

性と死と再生の物語(あくまでもこれは愛の話ではなく、ある「女」の話だと思う)をキャストは皆素晴らしい演技で支えている。
ホリー・ハンターはホントにいい女優だと思う。彼女を初めて見たのは「ブロードキャスト・ニュース」。小さな体でパタパタ走りながら、どんな男よりも自立し、嘘を許さないプライドと感情を小さな肩に込めるのが印象的だった。少女のような独特の声をしていてファーストシーン、ラストシーンのモノローグではエイダの純粋さと孕んでいる狂気に近い意志の強さを見せ、素晴らしい。妖精の美しさと天使の羽根を持っているアンナ・パキンも最高にイイ。少女らしいしなやかな動きと柔らかな肌。砂浜で舞う彼女は、この世のものではないかのように愛らしい。

にしてもマイケル・ナイマンの「楽しみを希う心」は名曲。いつ聴いてもぞくぞくするような感動がある。(2003.5.14)
 
ひかりのまち (WONDERLAND)   [1999.英]   ☆☆☆☆

監督:マイケル・ウィンターボトム

STORY:伝言ダイヤルで恋人探しをするシングルのナディア。息子がいながら夜遊び好きのバツイチの姉デビーと妊娠中のおとなしい妹モリーと支え合いながら、愛を探し続けている。両親は不仲ではないけれど、決してうまくはいっていない。弟ダレンは、家を出て行ったきり・・・。誰かにそばにいてほしいけれど、それを表現できずにいえる不器用な家族。そのひとりひとりに、ある週末、小さなイベントが起こる・・・ロンドンという「WONDERLAND」で懸命に生きる家族を通じて描かれる、痛みと、幸福と、「生」の物語。マイケル・ナイマンのスコア、ざらざらとした映像の粒子が、不思議な生々しさとあたたかさの両方を湛える。

CAST:ジナ・マッキー、シャーリー・ヘンダーソン、モリー・パーカー、イアン・ハート、ジョン・シム、スチュアート・タウンゼント

観ているときはなぜか分からなかったけれど、この映画のあるシーンで、思いっきり心が震えて涙がこみあげた。マイケル・ナイマンの音楽が素晴らしかったから?きっとそれは大きな理由のひとつだろう。そのざらついた映像でとらえられた光の美しさが尋常じゃなかったから?うん、それも間違いじゃない。けれど、いちばん大きな理由は、この映画には「人」と「街」への愛が詰まっていて、それが最高潮に達した瞬間だったからなのだろう。
「都会」「ひとり」「女」「男」「働く」「愛されたい」「愛したい」「家族」・・・ロンドンには、この映画に詰まったキーワードに共感する人がどれくらいいるんだろう?きっと無数なんだろうな。じゃ、今、東京で、このキーワードに共感する人がどれくらいいるんだろうか?・・・それもきっと、無数。そう、ヒトが集い、必死で生きている場所には、この思いが集まっている。それが都会という「WONDERLAND(原題)」。「ひかりのまち」が美しく愛しい理由。

ロンドンの街の片隅で不機嫌そうな唇に煙草を加え、細い肩に思いっきり力を込めて街を歩き、薄い体を力強く動かし働く姉妹たちと、何かしていないと落ち着かない、不協和音が許せないその母。ああ・・・この女たちは本当に必死で生きてるんだなー。肩凝ってるだろうなあ。そんなに力入れたら疲れるでしょう、無理しないで、と声をかけたくなるほど、彼女たちは懸命だ。
一方でそんな彼女たちをやさしく、あたたかく見つめる「ことしかできない」男たちがいる。彼らが働くシーンがほとんどなく、彼らには全く「責任」「大人」といった印象がない。要は甲斐性のない男たちだ。だけど、彼らもまたロンドンの雑踏が包み込んでいく。
当たり前の日常。小さな事件。幸福。悲しみ。痛み。怒り。喜び。織り交ぜられるエピソードのひとつひとつと、そこに映し出される人の思いが、本当に切ない。
キャストのアンサンブルも素晴らしい。なかでももうすぐ父になるというのに自分の未来に不安を抱えてしまったエディ役のジョン・シムがよかった。本当に暖かい目の持ち主。頼りなく、純真な子どものようで、自分のなかの不安を隠しきれずにいるエディ。美容師をしながら一人で子どもを育てているデビー役、華奢な体の奥に逞しい魂を感じさせるシャーリー・ヘンダーソンもいい。自分の生き方を貫くなかで、犠牲にするものの深さを痛感しながら、奔放であり続けようとする女。冷めてて、トンがってて、それでも時折滲ませる優しさや不安そうな表情がとても人間らしい。

音楽の使い方との色づかいの美しさ、静かな静かな愛の描き方。ウィンターボトムの監督作は最近まで何故か縁がなく、あまり作品を見たことはなかったのだが、どうやら私の好みにしっくりくる映画作家のよう。この監督、どうやら「切ない映画」がキーワードな気がする。

冒頭の「シーン」は人にとって異なると思う。私の場合は、光の洪水の中で、さまざまな人が同じものを見つめ、そのさまざまな表情の豊かさを見せるシーンだった。人は、きっとひとりじゃない。人はきっと、誰もがひとり。相反する現実。それでも、世界はこんなに美しい。だから、私たちは生きていける。  (2003.8.3)
 
ファイト・クラブ (FightClub) [1999.米]   ☆☆☆☆☆

監督:デヴィッド・フィンチャー

STORY:眠れないエリート青年。自宅の爆破事件をきっかけに、出会った正体不明の【タイラー・ダーデン】という男に誘われた彼は、殴りあうことで自己を開放する「ファイト・クラブ」を組織し、自分の居場所を見つけていく。しかし、次第に衝動をコントロールできなくなり、組織はカルト集団と化していって・・・
デビッド・フィンチャーの四作目。物質と情報で成立する世界の破綻をブラックに描き出した作品。

CAST:ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ヘレナ・ボナム・カーター、"ミートローフ”アディ、ジャレッド・レト

「精神的」生活を、「肉体」が解き放つ。
最初は、それでよかった。暴力から生み出される快楽の享受。痛みと向き合うことで生まれた生の実感。疑似体験じゃない。
「肉体的」生活を、「精神」が解き放つ・・・?
でも何かがおかしい。狂っている。何か違う意味を持ち始めている。タイラー、お前は誰なんだ?答えろよ、おい!

デヴィッド・フィンチャーの作品が面白いのは、悪夢を思わせるからだと思う。夜中、冷や汗をかき、ぞっとして、ふっと目を覚ます。何の夢を見たかは覚えていない。けれど悪夢だったことは覚えている。もう一度目を閉じる。繰り返される悪夢。その夢は、夢だと分かりながらも恐怖に満ちていて、・・・再び目を覚ます。・・・繰り返される悪夢。それでも私たちは目を閉じる、眠ろうとする。いつしか現実との境は不明瞭になり、悪夢は現実を浸食していく。・・・
(「エイリアン3」はともかく)「セブン」で発せられた強烈な悪意、駄作と言われた「ゲーム」(個人的には嫌いじゃないです)のラストが幻想に見える謎・・・それらはすべて、悪夢が現実を浸食し、現実が悪夢を超えていく恐怖というテーマに基づいている。
この作品において、悪夢はついに完成する。

エドワード・ノートンが凄まじい。「北欧家具の通販とスターバックス・コーヒー」で出来た生活を送る男。不眠症で、不幸を疑似体験することを生き甲斐にし、タイラーとの出会いで「失う」ことを恐れなくなる男。目の下のうっすらと浮かび上がるクマ。怯え。怒り。単調な声。邪悪さを剥き出しにしていく表情の変化。ひとつひとつが信じられないレベルで面白い。(そういえば私、この映画で完全にノートンにハマったのだった)
嬉々として陽気にタイラーを演じるブラッド・ピット(オーバーアクトを生かしきったフィンチャーの確信犯もあると思うが)もなかなかいい。黒い蝶々のようなマーラ役、ヘレナ・ボナム・カーターも独特の存在感を見せる。

この作品、「物質文明批評」というのは的外れな気がする。むしろ精神と肉体の冒険的な戦いの話ではないだろうか。精神だけで生きていけるような薄っぺらな現実のなかで、肉体を取り戻そうとする男のまさに悪夢のような寓話。物質や情報は、あくまでこのテーマを見せる手段だろう。暴力、女・・・ファイト・クラブによって取り戻される、忘れていた奇妙な高揚感。けれど、それがもし「肉体が精神を陥れる」罠だったとしたら?肉体に精神を乗っ取られたら?
ブラックな笑いと悲鳴、抜群のビジュアル・センス、DUST BROTHERSの無機質な音楽、キャストの好演・・・すべてが(個人的な私の好みにもね)フィットした傑作。

This is your life.
それにしてもこのセリフ、何とシニックで不気味なことか。

※DVDついに購入。プレミアム・エディションのおまけ映像はなかなか楽しいのでオススメ。ノートンのナレーションはやっぱり素晴らしい。(2003/5 追記)
 
フォロウィング(Following)   [1998.英]   ☆☆☆☆

監督:クリストファー・ノーラン

STORY:退屈な毎日のうさ晴らしに「尾行」遊びを始めた作家志望の無職青年ビル。ルールを決め、人の暮らしの入り口までをほんの少し覗き込む。ビルは尾行の楽しさを覚え、ハマっていくが、その矢先、コッブという男に尾行に気づかれてしまう。そのときから、ビルとコッブの奇妙な関係が始まった・・・クリストファー・ノーランの初監督作品。キャストは皆社会人、撮影は土日限定(!!)のモノクロという低予算作品。

CAST:ジェレミー・セオボルド、ルーシー・ラッセル、アレックス・ハウ、ジョン・ノーラン

どこの映画批評を読んでもこういう表現はあまりされてないんだけれど、クリストファー・ノーランは「男好きなのかな?」って思わせるほど男を官能的に撮る監督だ、と思う。以前、『メメント』で思いっきり脳掻き回されたときには、作品にはちょっとした胡散臭さを感じてしまったのだが(時間軸遊びもココまでいくとやりすぎじゃないのか?なんて思った)ガイ・ピアースが刺青だらけで鏡の前に佇む姿が見たことないほど色っぽくて驚いたのだ。アル・パチーノの老いた肉体に語らせた『インソムニア』ですら妙な色気があった。
この作品も妖気たっぷり。尾行/不法侵入、といった行為を通じて、冴えない青年(ジェレミー・セオボルド、フランス系フィルム・ノワール顔で結構いい)が奇妙な高揚を感じていく過程を例によって不思議な映像の錯綜で見せていく。追うものと追われるもの、秘密と嘘、男と女(運命の女=ルーシー・ラッセルはちょっと色気不足。ただ女の妖気はノーラン作品にはいらないんでよいのだ)、リアルとアンリアル・・・様々な用件が自然に混ざり合っていく。そこに生まれるフリーセッションのジャズのような、妖気あふれる緊張と弛緩のリズム。
この妙な妖気って、クールな人物造型でキャラクターに感情移入させないところから来ているような気もする。観ている側も俯瞰でキャストを「尾行=フォロウィング」しているような感覚に陥るのだ。ということは無機質なようで、それぞれのキャラクターは、こちらが精神状態を追体験できる肉体性を兼ね備えている、といえるのかもしれない。(と考えると主人公の官能性や妖気はこちらを惹きつけるために必須なわけだ)

『メメント』で主人公の肉体に潜む妖気を見せながら記憶喪失を追体験させ、『インソムニア』では老いゆく肉体の揺らぎを生々しく見せながら、不眠症を追体験させたクリストファー・ノーラン。処女作であるこの『フォロウィング』には既に彼の作品の全てに共通する魅力がある、といえるだろう。目の粗いモノクロ画面は、リアル/アンリアルの狭間を揺れる感覚ぴったりで効いているし、70分という短時間でのまとめ方もすっきりしていていい。個人的には、彼の作品の中で(まだ3作しか撮ってないんですが・・・!)一番好き。 (2003.6.02)
 
ボウリング・フォー・コロンバイン(Bowling for Columbine) [2002.米]  ☆☆☆☆☆

監督:マイケル・ムーア 

STORY:言わずと知れた、コロンバイン高校事件の背景にあったのは病んだアメリカの銃社会。突撃取材と皮肉な笑いで知られるマイケル・ムーアが現代のアメリカ社会とブッシュ政権に冷ややかなNOを突き出すドキュメンタリー。

CAST:マイケル・ムーア、マリリン・マンソン、ジョージ・W・ブッシュ、チャールトン・ヘストン 

コロンバイン高校での銃乱射事件の際、マリリン・マンソンや、ゲーム、見ていた映画は問題視された。しかしその朝、犯人の少年たちがやっていたボウリングは何故問題にされない?という半ば冗談のような切り口から、マイケル・ムーアはアメリカの現実を冷ややかにシンプルに、何よりユーモラスに突きつけてくる。この「笑い」がポイントだ。アカデミー賞の過激なスピーチも印象深いムーアは、淡々としたドキュメントなんて作る気がないのだ。笑えるものを作ろうとしている。明確な意図だ。
カメラと笑いのチカラを心得たマイケル・ムーアは怖いものなしだ。気が付くと、私たち(=観客)はマリリン・マンソンの知性に驚かされ(「恐怖と消費の一大キャンペーンだ」という表現の言いえて妙なこと!)「アイ・ラブ・NY」Tシャツのカナダ人おじさんに大爆笑し、チャールトン・ヘストンの哀れさに悲しみと強い怒りを覚えている。ただ、そのバックにあるのはあくまでも「笑い」の視点だ。気づくとマイケル・ムーアがニヤリと笑ってボウリングをしている。

はてさて、この作品。今世界に必要なものは暴力ではない、というのはすぐに提示されているが、じゃ、実際は何が必要なのだろう?

ちなみに数年前に私は「暴力とセックス(=痛みと快楽。それに対してイマジナティブになること)が世界を救う」なんて断言してましたが・・・撤回します。
イマジナティブに、だけでなくそれを笑いに昇華させること。昇華させうるだけの知恵をもつこと。
マイケル・ムーアは、その重要さをそれとなく素材に盛り込んでいく。戦争の記録フィルムに重なる「What a Wonderful World」の使い方が抜群に上手い。知るべき事実。「何と素晴らしき世界」じゃなくて「何と素晴らしきアメリカ」がいいんでしょ、という皮肉。
多少説教じみた部分はあるけれど(「出稼ぎ母」のエピソードは重要ではあるけれど、ちょっと引っ張りすぎな印象だし、Kマートへの直談判が効果をもたらしてしまうところは事実とはいえちょっと出来過ぎ)、何より今のアメリカでこの作品を出した勇気と正しい狂気に点が甘くなる。簡単に答えを出していないことにも好感が持てる。必見。(2003.3)

追記その1:実は私が一番納得したのは「サウス・パーク」のマット・ストーンの言葉。「コロンバインはひどくウソっぽい学校で、リトルトンはうんざりするぐらい平和で変化のない町だ。あの頃、たとえば、試験で失敗したら、そのまま一生負け犬でいなければならないという恐怖に支配されていた。・・・でも実際は?あのころの優等生が地元で生保のセールスマンだ」・・・この言葉、異常にリアルに響いた。例えば、成績優秀だったとしても、周囲がそうじゃなかったら?例えば、スポーツができても、それがアメフトや野球じゃなくてアメリカで馴染みのないスポーツだったら?周囲と違うものを認めない、皆平均値+αを求める社会。平均以下+β、じゃ駄目な学校社会。馬鹿馬鹿しい。けれど、その中にいるときはそれが絶対だと信じてしまう。・・・日本の学校社会にも同じことがあって、私も苦しんだ過去が(実は)ある。思い出したら悔しくなってきた。くたばれ、似非民主主義教育!

追記その2:ちなみにこの映画を見た際の恵比寿ガーデンシネマはものすごい混雑だった。ニュースで好意的に紹介されたことがきっかけだろう。けれどマイケル・ムーアもまた、メディアの人であり、これはドキュメンタリーの形をとった「彼の」主張だ。その事実をきちんと見据えた上で、この作品は鑑賞していくべきだと思うなあ・・・ (2003/8 追記)

 
僕たちのアナ・バナナ(Keeping the Faith) [2000.米] ☆☆☆☆

監督:エドワード・ノートン

STORY:エドワード・ノートンの初監督作品。カソリックの神父ブライアンととユダヤ教のラビ、ジェイクははずっと仲良しの幼馴染。30過ぎてそろそろ人生を考える時期に入った二人のもとに、大好きだった女の子、彼らの住むニューヨークを幼い頃去ったアナがバリバリのキャリアウーマンになって帰ってきた!3人の繰り広げるラブコメディ。 

CAST:ベン・スティラー、エドワード・ノートン、 ジェナ・エルフマン、アン・バンクロフト

うーむ、ノートン先生、初監督作にしてなんなんだ、この手堅さは??通常、初監督作といえば私小説型になったり、テーマ型になる人が多い中、驚異の演技派エドワード・ノートンが撮ったのは、懐かしいテイスト全開のほのぼのラブコメ。
えー?ってなものだが、とにかくその辺のラブストーリーよりずっと手堅く撮れている。ベン・スティラー(背低いなオイ)、ジェナ・エルフマンも、生き生きしている。恋してはいけない神父(ノートン)と結婚しなきゃいけないラビ(スティラー)。親友同士の悩める恋・・・。って実はテーマは宗教がらみでヘヴィといえばヘヴィなはずなのだが、ものすごくほのぼの。誰もが笑って、悩んで、ちょっと成長する、ということ。嬉しい等身大の青春。
・・・ん?
もしかしてこれ、80年代の青春映画へのオマージュだったのかもしれない。エンドクレジットなんて、まさにあの世界。だからこそ多少長いのが気にかかる。(2時間以上ですからね)100分程度に収めたらもっと魅力的な作品になりそう。青春ものはスピード感と前向きさ!ってことで。

で、やっぱり言わずにおけないエドワード・ノートン(現在好きな俳優No.1!)本人の芝居。無茶苦茶イイ奴なんだ、今回の神父さん役。電話がかかってきて、服を選ぶシーンの切ないことといったら!アナに告白して、事実を知って呆然、水をかぶるとこ。多分、ノートンって実際はこういう人なんだろうなあ。女友達とか妹とすごく仲良いタイプ。別れた女にも決して悪く言われない。素顔はホントに普通の頭のいい、気のいい兄ちゃんらしいので、きっとこんな感じなはず。
・・・ん?
危ない危ない。この人の作品、ついついいつも「きっとホントもそういう人」に見えてしまうのだった。 (2003.5.1)
 
ポルノスター   [1998.日本] ☆☆(+☆、不満は多いが見る価値あり)

監督:豊田利晃

STORY:東京、渋谷。デートクラブを経営するチンピラ、上條が偶然出会った正体不明の青年、荒野。彼は街でぶつかって因縁をつけてくるヤクザを何の躊躇もなく刺し、「いらんねん」の一言でヤクザ狩りをしている・・・奇妙な交流が生まれていく二人だが、デークラ嬢のアリスや大量のLSDが絡んできて、事態は混乱していく・・・。『アンチェイン』『青い春』の豊田利晃(当時29。何と脚本家デビューが阪本順治の『王手』で22のときというから驚く)の監督デビュー作。

CAST:千原浩史、鬼丸、緒沢凛、広田レオナ、鈴康寛、KEE、KENTA、奥田智彦、上野清隆、杉本哲太、麿赤児

お気に入り監督、豊田利晃作品だが1作目ということもあり、さすがに荒っぽい、というか雑な作品ではある。散文的な作品になってしまっていて、重要なワードが生かされないところは大いに不満。説明不足すぎる点も多々あるし、女の子の使い方が中途半端で急にリアル感を損ねる。(やはり「男」の監督なのだ、この人は。小沢凛はこの役には合わないし、何しろ台詞が多いのに下手なので見ていてキツイ。)それでも、他の作品同様、ここにも強烈なエモーションがあるから見入ってしまう。しかも大声で叫ぶエモーションではなく、静かな熱さに満ちたエモーション。

ヤクザやチーマー、ドラッグといった典型的な「不良モノ」の付随品はいっぱいついてくるのに、そのジャンルからは著しく脱線していて、結局どこに向かっているのか謎なままフツリと途切れる物語も面白いが、何よりやっぱりキャラクターの立て方がいい。何者でもない、主人公荒野。どこから来たのか?何がしたいのか?何故「いらん」者にこだわるのか?その説明は一切ない。強烈な三白眼の千原浩史がうつむき具合でゆらり、とたたずんでいる。奇妙だけど、何かありそうな主人公の存在感。「不良」とは異なる、「違和感」に近い存在。新しく、リアルで鮮烈な主人公のスタイルだ。画的なキメに関してもこの監督の嗅覚は凄いものがある。ずぶ濡れの主人公が薄汚れたアーミー調のコートで片手にナイフで駐車場に出現するシーンの怖くてクールなこと!!あと、躍動感ね。これまた凄い。スケボーのシーン。あの足下のカットと坂道を少年たちと主人公たちが縫うように渡っていく動きのナチュラルなイビツさとスピード感にワクワク。空の映し方も面白い。さらに音楽の使い方はやはりこの1作目から文句なしで邦画界随一。こういう風に自然にシーンに合わせてラフなギターロックを鳴らせる監督が出てきたのは、日本映画にとって相当プラスになるんじゃないだろうか・・・

って考えてると、「あ。これアオハル(『青い春』のあまり意味ない略。でも響きが好きなのでこう呼んでます)じゃん」って途中でハッキリ分かる。
荒野→九條。上條→青木。集団スケボー→一人サッカー。墓碑銘→落書き。青空、ガレージロック、快楽を伴わない暴力、奇妙なユーモア。あー、共通項だらけだ・・・そうか、あの傑作に行き着くための、スタート地点だったわけですね。じゃ、多少アラがあるのは許します。(笑、何者だ、私)ってのは半分ネタにしろ、見る価値はあり、だと思った。

小咄:豊田監督作品に関するNunoとの会話。「『青い春』原作者の松本大洋は、元々豊田利晃に絶対的な信頼をおいてて、脚本にほとんど口を挟まない、って言ってたみたいよ」「あ、確かに松本大洋の世界観と合う気がする。特に『アンチェイン』。」「『ポルノスター』もそうなの?漫画っぽいけど」「いや、『アンチェイン』のほう。勝つとか負けるとかじゃなくなった壊れた感じ。『ポルノスター』は井上三太(松本大洋の従兄弟漫画家。代表作はTOKYO TRIBE)のほうだと思う」「あー、なるほど。上手いこと言うね」・・・分かる人は、この会話でどんな監督か分かるのではないだろうか?Nunoのときどき見せるこういった表現の鋭さ、特に漫画とゲームへの造詣は私には遙かに及ばなくて、しばしば驚かされる。 (2003.9.30)

 

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