CINEMA REVIEW

CINEMA TOP   HOME

 

『さ』行の映画。

■サイダーハウス・ルール  ■座頭市 ■ザ・ロイヤル・テネンバウムズ  ■シカゴ

■シティ・オブ・ゴッド  ■真実の行方  ■スタンド・バイ・ミー  ■スティング 

■スティル・クレイジー   ■スリー・キングス     ■セッション9  ■千年女優

サイダーハウス・ルール(The Cider House Rules) [1999.米] ☆☆☆☆☆

監督:ラッセ・ハルストレム

STORY:ラーチ院長に医術を学びながら育った孤児ホーマー・ウェルズ。けれど多くの孤児たちを育てる一方で、望まれぬ子供を”処置”する違法の堕胎手術を続けるラーチに、青年となったホーマーは反発する。堕胎は倫理的に許せない・・・将来に疑問を抱いた彼は、ある日若いカップル、キャンディとウォリーと共に孤児院を飛び出す。初めてみる外の世界、初めての仕事・・・ホーマーはリンゴ農園で働き、収穫人の宿舎【サイダーハウス】で暮らし始める。それは彼の新たな出会いと別れの始まりだった・・・

CAST:トビー・マグワイア、シャーリズ・セロン、ポール・ラッド、デロイ・リンド、エリカ・バドゥ、マイケル・ケイン

このタイトルの意味が、見終わるとよく分かる。【サイダーハウス】の黒人収穫人たちの部屋に貼られた、文字が読めない彼らには全く意味をなさないルール。その「ルール」を守ることに、どんな意味があるというのだろう?それよりもずっと大事な、人を守っていくこと、人の役にたつことを優先するために、「ルール」を破るべきときがある・・・というのを丁寧に丁寧に見せた作品。
・・・誰もが「いい人」でも「悪い人」でもない。人間はそんなに、単純じゃない。倫理的だったり、迷ったり、時にはひどいことをしたり、色んな側面がある。でも「自分にとって何が大切か」は自分で決めなくちゃいけない。自分のルールは自分で築いていかないといけない。それが例え世間一般では間違っていたとしても、そこで覚悟を決めて未来を選んでいくべきときが必ずある。そのためにどんな犠牲を払っても守らなきゃいけないものを、誰しもきっと持っている・・・

脚本は原作者ジョン・アーヴィング。これも成功のポイントだろう。
重いテーマをあたたかく描く彼は、孤児院をステレオ・タイプの「不幸な場所」として描かなかった。それでも「愛されて、ここから出て行きたい」と願う子どもたちの真剣さがいとおしい。主人公ホーマーもまた、新たな世界を知りたい「子ども」のひとりだ。そのホーマー役、トビーが見せる表情が素晴らしい。外の世界に出た瞬間のキラキラとした笑顔。困惑した表情。ラストシーンのあたたかい視線。無表情スレスレの目から放たれる、暗い光。薄い唇から発せられるやわらかな声。不思議な存在感で、決して大声をあげたり感情を爆発させないのにひしひしと彼の気持ち、成長が伝わってくる。やっぱり面白い俳優だ。
マイケル・ケインの穏やかな父性と真摯さ(この作品でオスカー獲得!)はもちろんのこと、シャーリズ・セロンも一歩間違うと「ヤな女」になるところを、美しい体と陽射しのような笑顔でこの作品をより美しいものにしている。そして風景。雪、海、木・・・自然が自然として息づく美しさ!泣けてしまう。・・・

そう、分かりやすくいうと、この私が泣きそうになった(性格悪いのでそれでも号泣なんぞしないんだけどね)数少ない作品の一本。未だにあの音楽が流れると涙腺が緩むのだった。(2000.12)
 
座頭市  [2003.日本]  ☆☆☆☆(+☆、ここはあえて5つ星!)

監督:北野武

STORY:盲目の居合い斬り達人・市。辻斬りや用心棒で身をたてる浪人の服部源之助と病身の妻。親の仇を探す芸者のおきぬとおせい。悪徳ヤクザの銀蔵一家が牛耳る同じ宿場町に引き寄せられるように集まってきた宿命の人間たち。やがて、働き者の農婦おうめとその甥っ子博打打ちや、町人たちも絡みあい・・・壮絶な戦いが幕を開ける。

CAST:ビートたけし、浅野忠信、夏川結衣、大楠道代、橘大五郎、大家由祐子、ガダルカナル・タカ、岸部一徳、石倉三郎、柄本明

「面目を大切にする映画好き」にとって、北野武は鬼門である。「その男凶暴につき」デビュー以降、「ソナチネ」の大絶賛と興行的大コケ→「Kids Return」の大絶賛とスマッシュヒット→「HANA‐BI」の絶賛とベネチアでの監督賞とロング・ヒット。北野映画ファン=「キタニスト」は玄人っぽくて、一種のステイタスすらあった。が「菊次郎の夏」「BROTHER」「Dools」とヒットするにつれ、様子は変わっていった。批評家受けはガタオチ。映画好きからも、元々指摘されてきた「娯楽性のなさ」と「アートっぽさ」を否定する声が強くなった。あーあ、これほどミニシアター監督の辿る悲しい道を歩んでいる映画監督もいないだろう。監督としての知名度、マスコミでの扱いが大きくなればなるほど、映画好きが離れていく、という現実。もはや今、真っ向から好きな監督:北野武、ってあげたら、玄人に見られたがってる映画素人、程度に思われるんでしょね。そんななかでのこの作品大ヒットの報に、あー、余計事態が混乱してる・・・とブルーになった、一人の典型的な「元キタニスト」がいる。お察しのとおり、私である。

正直、他の北野映画ファン同様に、私もこの「分かりやすさ」には戸惑った。「北野映画らしさ」を薄味にして全体に降りかけたかのよう。オープニングからして、過激さすら感じない血が噴出す素早い殺陣、お寒いくらいのギャグ、残酷な現実、殺伐とした空気と「画的なキメ」を端々に織り交ぜ、分かりやすく「暴力とユーモア」の関係を見せる。え、こんなに分かりやすく自作の作風を紹介していいの?これじゃまた、中途半端な批判を呼ばない?そうでなくても「勝新」の市への冒涜だって声もあるのにさ。不安が募る・・・とはいえ、そこはコミック感覚を十分に持っている監督のこと。それを忘れさせる勢いで、オープニングからラストまで、2時間弱が全くあっという間。迫力満点に楽しく見せきってくれた。まずはその勢いが嬉しい。
キャストでは浅野忠信がダントツで素晴らしい。徹底した無表情の用心棒に死の影を匂わせ、若手映画俳優で最高峰の芝居を見せる。抜群に上手い。今までの彼の作品のなかでも、これがベストアクトでは?居合の一瞬で止めた張り詰めた表情で、そのまま同じ顔を数秒間完全にキープしてみせた(アップにこれだけ耐えるって凄いことだ)のは圧巻。大楠道代、ガタルカナル・タカ、岸辺一徳など一筋縄でいかないキャストの所作や台詞回しも気持ちいい。
それにしても、と小うるさい「元ファン」はスクリーンを眺めながら思う。いちいち戦いが小ざっぱりしちゃってるなあ。血糊も切り裂きも激しいんだけど、汚れ感が弱いんだよなー。例の「緊張と一瞬の間合い」の怖さも時代劇でやるとこんなもんか・・・うーん、悪くないけど。なんだか、スカスカでちょっと物足りないよなー、これは。

しかし、ラストシークエンス。その物足りなさは嬉しさに変わった。そうか、この空虚なまでのあっけない戦いは、このためだったのか。槌が、鉋が、楽器となる。リズムとなる。冒頭の鍬の音、雨の田でのステップがここで生きてくる。徐々に徐々に、ざわめきはじめる何かの気配。祭りだ。体が興奮してくるのが分かる。それでも、まだ、THE STRIPESのソロ・タップや可愛い娘たちの群舞は、「菊次郎の夏」のCONVOY SHOWの域を出ていなかったのだが・・・
登場人物たちが群舞に入ってきた瞬間、あまりの嬉しさに泣きそうになった。
ああ、これだ。これが、見たかったのだ。汚さも、哀しみも、苦しみも、全てを流す歓喜のさざめき。老いも若きも男も女も入り混じり、タップを踏む。鳴り響く音の力強さよ。悲しい運命に翻弄される芸者姉弟も、「貧乏するために働いてるようなもん」のお百姓も、博打大好きなぐうたら遊び人も、へなちょこ武士もどきの変態漢も、皆踊り、皆目を輝かせる。私たちは生きていく。虐げられ、苦しみ、それでも人は生きていく。チャンバラ映画の常套、弱き者の勝利の宴会に大衆演劇風のケレン味を足しただけ?いや、違う。冷静に考えてみて欲しい。では何故皆が向かい合ってではなく、正面のカメラに向かって躍る?何故、芸者姉弟に幼い頃のイメージを被せて強引に観客に見せつけた?それは「勝利」の喜びではなく「生きていくこと(≠生きていること)」そのものの歓喜を、幸福を、監督が信じ、初めて「主張」してみせたからではないか。

北野武には「人には、幸福になる権利と不幸になる自由がある」という稀代の名言がある。そして、彼は「不幸になる自由」を描きつづけていた。その彼が、初めて「幸福になる権利」を描いたこと。それが私には嬉しくてたまらなかった。100%よく出来た作品とは思わない。けれど、あえて言おう。私はこの映画が好きだ。素晴らしい、と思った。何とも批判の声が多く、好意的な評は必ずエクスキューズがつくか権威に寄り添うようなことしか書かれてない・・・そんなあまりにも不幸なこの大ヒット作に、祝福あれ!(2003.12.10)
 
ザ・ロイヤル・テネンバウムス (The Royal Tenenbaums)  [2002.米]  ☆☆☆☆

監督:ウェス・アンダーソン

STORY:有名弁護士ロイヤル・テネンバウム家の子供たちは十代で成功を収めた超天才児ばかり。長男チャスは天才実業家、次男リッチーは天才テニスプレイヤー、長女(養女。)マーゴは天才戯曲家。母エセルも考古学者として著名。
22年後、現在。弁護士資格を失い、金も底をつき、暮らしていたホテルを追い出されるロイヤル。チャスは妻の飛行機事故死のショックで避難訓練に明け暮れ、へなちょこ試合で選手を引退したリッチーはヨレヨレ。マーゴは自宅のバスルームにこもりっきり。母エセルは会計士のヘンリーにプロポーズされて、思案中。そんなところにロイヤルが「あと6週間の命だ」とふらりと戻ってきて・・・?

CAST:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、ダニー・グローバー

好き好き。オフで暴発気味の笑いと奇妙な美しさが同居した作品。ヘイ・ジュードが流れるファーストシークエンスの流れだけで、傑作の予感。ザクザクした切り口とテンポを崩さず、そのままラストまで突き進む。
各自が自分の世界に自分で鍵をかけて、その鍵をなくしてしまったような天才一家。ポイントは「愛と再生のホームドラマ」でなく「愛?と再生?のホームドラマ?」なところである。そう、愛も再生も家族も、どうしようもなくイビツなのがこの作品。いいかげんで、嘘つきで、「家庭」に固執するサイアクの父テネンバウム(ジーン・ハックマンの老練なオヤジっぷり!)に対する感情。家族は誰も「愛」なんかじゃない、というだろう。だけど、それ以外にどんな言葉で呼べる?ひとりひとり、ぽつぽつと戻ってきた家族が家庭の形を取り戻していくけれど、それは可笑しいほどイビツな家族。「再生」したとは到底呼べない。けれど、確実に生まれ変わった家族には違いないんじゃないか?
世の中なんて、そんなもの。「愛」なんて呼べる「愛」なんてなかなか存在しない。「再生」といえるほどきっちり「再生」していく家族なんてリアルじゃない。だけど、だから、世界は楽しく、美しい。皮肉っぽく、シュールで、ひんやりとした味わいでありながら、どこかでそんな監督の視線を感じさせている。・・・だから、あのラストが生きるのだ。ヒトは逞しいのだ。

キャストもハマリまくっている。元天才劇作家少女を演じたグウィネス・パルトローがひさびさに好演。隈取りのように、目の下にキッチリ引かれたアイラインの哀愁!ベン・スティラーの赤ジャージの奇跡的なまでのダサさもお見事。こんなにダサくジャージを着られる外国人がいるだろうか、いやいない。(即答)普通はもう少し「ファッション」に見えるのだが、彼の場合はドリフの「修学旅行コント」のよう・・・ひゃひゃひゃ。それが作品の魅力になってるんだけどね。(2003.5.17)
 
シカゴ(CHICAGO) [2002.米]   ☆☆☆☆ (-☆。当初5つ星。でも意外に印象がすぐ薄れてしまったので・・・)

監督:ロブ・マーシャル

STORY: 1920年代シカゴを舞台とした、ブラックでセクシーなミュージカル(コメディ?)の完全映画化。 TOPショウガールのヴェルマ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でアカデミー助演女優賞を獲得。会場では妊娠中のド迫力パフォーマンスで場をさらった)に憧れ、歌手を夢見る主婦ロキシーが自らの愛人殺しの裁判を機にスターダムにのし上がっていく姿をブラックユーモアとゴージャスな歌とダンスでキラキラと描く。

CAST:レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、リチャード・ギア、クイーン・ラティファ、ジョン・C・ライリー

瞳のアップ。その中は真っ暗闇。その闇の中に映るCHICAGOの文字。バタバタしているジャズクラブの裏方たち。車から降りる女性の足元。女性が歩くたび、高いヒールのカツカツという音がジャズのリズムと絡み合う。始まるのは名曲、「All that JAZZ」・・・ピアノに寝そべり、生々しい長い脚を投げ出して低く渋い声で歌うヴェルマ。ポーっとそれをみつめるロキシー。
ううむ、カッコよい。最初のこの1シークエンスでこの映画のセンスとテンポのよさに嬉しくなる。そんなわけで、前評判に違わず「CHICAGO」はとてもとてもよく出来たカッコいいミュージカル。1920年代好きの私としては、抑えるしかないでしょ。フフフ。

キャストが大健闘。レニー・ゼルウィガーはお人好し顔を利用してメディア・ジャンキーのあばずれショーガール、ロキシーをやせっぽちな体とキャンディ・ボイスとともに楽しんで演じているし、(ふわふわとした存在はこの時期のフラッパーの典型と見ても面白い!)ルル風のオカッパで帽子を粋にかぶったヴェルマ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの余裕たっぷりの身のこなしと煙草の吸い方には惚れ惚れさせられる。(さすがのゴージャス感!“Bitch!”と舌打ちする姿の迫力と上手さったら!)あげく「女より金」という守銭奴弁護士役のリチャード・ギアにまで初めて好印象を持ちました(女と絡まないほうがいいんです、多分。彼の場合。)女看守役のクイーン・ラティファもハマリまくり。(ある意味ゴージャス感のあるBODYですね、彼女も・・・。)吹き替えなしのダンスと歌も見事!まあなかではギアは存在感薄いんですけど(ダンスや歌も含めてね)、そもそも男は飾り物、添え物ですから、この映画自体が。

殺人も、裁判も、シカゴを舞台とするショウの一部。真実なんて必要ない。事実があるとすれば、このセクシーで破壊的にパワーある女性たちの前には常識は通用しない、ということだけ。女には元気が出る映画です。ミュージカル嫌いな方も見てみてほしい一作。   (2003.4.8)

 
シティ・オブ・ゴッド(Cidade de Deus)   [2002.ブラジル]   ☆☆☆☆☆

監督:フェルナンド・メイレレス

STORY:ブラジル・リオデジャネイロのスラム街「シティ・オブ・ゴッド」ここでは、「生き延びるため」「野望のため」ならどんなルールも求められない・・・
1960年代、「シティ・オブ・ゴッド(神の街)」と呼ばれる貧民街に、3人組のギャングがいた。ギャング団のひとりを兄に持つブスカペは、写真家を夢見る少年。ギャング団に憧れる同い年のリトル・ダイスは、リーダーのカベレイラとともにモーテルを襲撃し、そのときから時代が動き始める。70年代、やがてリトル・ダイスはリトル・ゼと名前を変え、街のギャングのボスとなる。町にはドラッグが蔓延し、ギャング団は麻薬ビジネスの組織を立ち上げて大金を稼ぐようになり、街は一定の秩序を保つようにまで変わりゆく。しかし、やがて起こったひとつの事件から、街は熾烈な闘争の場となり・・・

CAST:アレシャンドレ・ロドリゲス、レアンドロ・フィルミノ・ダ・オラ、セウ・ジョルジ、ジョナタン・ハーゲンセン、フィリピ・ハーゲンセン

猥雑にして繊細、残酷にして陽気、不幸にしてコミカル、そして醜くて美しい。ありとあらゆる要素が混乱する世界。ファーストシーンの“ニワトリ大脱走”からの2時間以上、目が離せず圧倒され続ける。(実は、この要素が混乱した世界を描ける映画ってすごく難しい。通常なら一般受けレベルには、なかなか落とし込めないだろう)
ドキュメンタリーのような質感。時間軸の交錯のさせ方。くすんだ色の空気。シティ・オブ・ゴッドという街そのものが息づき、乾ききった銃声が響き渡る。まるで青春映画のようなシチュエーションに、セックス、ドラッグ、正しくワルい男(の子)たちが放り込まれ、一点突破な「殺ったれ(トったれ)」が始まる。それはもう圧倒的に引き込まれるリズムとしか呼べない描写が重ねられていく。痛みを伴う、決してカッコよくないバイオレンスの連打。そんな生死スレスレの世界にある、ありふれた恋やありふれた友情。陰惨ななかにも点々と落ちた、ジョークのようにおかしな状況。その異常さがぞくぞくするほど黒い笑いを噴出させるのもいい。
もはやその次元には「世の中にはこんなに子どもたちが凄まじい境遇に置かれる世界があるんだ」なんてことを思わせる物語以上に、シティ・オブ・ゴッドに宿る、人間の根本的な生命の力しかない。そこにこそ、ヒトの怖さがあり、面白さがあり、事実がある。
狂言回しとなっているブスカペのハンパ者な「だらしなさ」や、悪に完全に見込まれてしまい、「子どものままで」狂獣と化していくリトル・ゼが放つ不気味かつ奇妙なオーラ、ベネの「愛されるギャング」ぶりのチャーミング、いちいちコメントするまでもない人物造型もこの映画の面白さ。何よりリトル・ダイスの底抜けに明るい笑顔(あの白い歯!)を見よ!あの笑顔の怖さが分かってるあたり、素晴らしい!
そして、全てのシーンが私のニヤニヤ笑いを駆り立ててくれる。「こんなすげーもん、つくりやがって!」

個人的に連想したのは「フェイク」「トラフィック」「俺たちに明日はない」「レザボア・ドッグズ」「グッドフェローズ」「ワイルドバンチ」「仁義なき戦い」そして何故か「トレイン・スポッティング」「ロック・ストック・トゥ・スモーキング・バレルズ」といったコメディタッチなものまで含む、新旧問わず数々の過激でしぶといヤツらの犯罪映画。(そういえば、ギャングものの定石や美学とは決して相容れない位置の映画群だな、これ)どの映画とも「似てない」んだが、映画としてのスピリットに共鳴点がある。ヒトのしぶとさ、映像のキメ、音楽の上手さ、ユーモアと皮肉、銃撃シーンの迫力、リズム感、etc。
なかでもこの映画の場合、映画として一本筋が通っている。撮りたいものが明確なのだ。それは結局「ヒト」という生き物、そのもの。どんな残酷もどんな理不尽も押し切っていくヒトの生命の迫力、したたかな野郎どもを見せることに徹し、説教っぽさが全くないところが一番の魅力だろう。

ストイックで、かつ独りよがりじゃない作風には、初監督作であるというフェルナンド・メイレレスの大物の予感をうかがわせ、とても興味深い。この雑多なパワーが入り混じる物語に映像での効果的な遊び(と書いてハッタリもしくはブラフと読ませたい。決してビジュアルエフェクトとして凝ったことをしているわけではないのだ)、音楽にもセンチメンタルなものを全く使わないという監督のセンスの良さが冴え渡ってるしね。
ま、もはや、説明するのが野暮だし難しいので、このコメントがあれば十分だろう。「必見!」       (2003.8.6)
 

真実の行方 (PRIMAL FEAR) [1996.米]    ☆☆☆

監督:グレゴリー・ホブリット

STORY:敏腕弁護士マーティンは今日も忙しい。雑誌の取材を受けたり、別れた女をもう一度口説いてみたり。何より彼は弁護士としての使命に燃えている。そんなある日、大司教が惨殺され、犯人として青年アーロンが逮捕される。名声とプライドにこだわると同時に、実は人間を信頼しているマーティンは無償で彼の無実を証明しようとするが、彼には恐ろしい秘密が隠されていた・・・

CAST:リチャード・ギア、ローラ・リニー、フランシス・マクドーマンド、エドワード・ノートン

エドワード・ノートン(大好き)がほぼ無名で出演し、いきなりのオスカー助演男優賞ノミネートで一気に知名度を上げた作品。まだ初々しいノートンのぼんやり顔がぐにゃり、と歪んで変貌する瞬間のスリリングさには衝撃を受ける。リチャード・ギアはいつもどおりに「セクシーな男」演技を連発し、ヘビースモーカーの検事役ローラ・リニーは煙草が似合わないし、フランシス・マクドーマンドの使い方も微妙だったりするし(さすがに一番上手いが・・・)決して抜群に出来のよい映画ではないけれど、ストーリーを覆う暗さとノートンの演技力に救われている。

にしても、ノートン。全く無名の若手(とはいえ当時20代後半にはなっているのだが)の芝居とは思えない。同時に、だからこそ怖い。コドモっぽいオドオドした視線が掻き消えて、アルカイックな笑顔へ変貌する。その瞬間のニタリ、と音がしそうな笑い。座りきった目。凄まじい。怖い。そして再びイノセントな少年の表情へ。うわ、すげーよあんた。オーバーアクトすれすれではあるが、彼の演技の質は変わっていない。言うなれば、味を濃くしたり、スパイスを大量に入れたりするのでなく、不純物を完全に取り払うことで味わいが深くなる、というような演技。無駄がなく、精緻な表現の仕方だ。ちなみに、もう少し遅ければトビー・マグワイアにもこの役をやらせたかったな。はまりそうな気がする。彼の演技もどちらかというとなりきりじゃないからな。
それにしても、リチャード・ギア。何故にいちいちカッコつけるかなあもう。じゃがいもみたいな顔なのに!(2003.5
.5

 

スタンド・バイ・ミー (STAND BY ME)  [1986.米]  ☆☆☆☆☆

監督:ロブ・ライナー

STORY:ゴーディは文章を書く才能に片鱗を覗かせる感受性豊かな少年。彼の3人の遊び仲間、クリス、テディ、バーンといつも通り裏庭の隠れ家で集まったある夏の日。バーンが驚くべき噂を聞きつけた。ブルーベリー摘みに出かけて行方不明になった少年が、列車に轢かれて死体は野ざらしになっているというのだ。死体を見つけた不良グループは、警察に届けていない。死体の発見者になれば、町の英雄になれる!彼らはこっそりと準備を整えて集まり、森林を走る鉄道のレール沿いに小さな冒険の旅に出かけた。

CAST:ウィル・イートン、リバー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコネル、キーファー・サザーランド、ジョン・キューザック、リチャード・ドレイファス

これ、リアルタイム(少年・少女時代)かオトナになってから観るべき映画なんだよね。残念なことに私は、最初にこの作品を見たのがとても中途半端な15歳のときくらい。もちろん、感動はしたんだけど、正直子役への感情移入も、大人への感情移入もできず、(もちろん感動はしていたんだけど)どこか俯瞰して「感動したなあ」って思っていた。当時の映画メモには「将来、自分に子どもがいて、その子がこのくらいの年になったら、きっと見せたくなる作品だろうな・・・」なんて、あきらかに中学生的でないコメントをしてました。(とはいえ、かつて最も感情移入したのはゴーディだった。仲間のうちで唯一勉強できそうなキャラクターで、気弱だけど結構底意地悪い、ひねたとこがあって、落ち着いてるようで不安を抱えたひょろひょろのゴーディ。白状すると私、下町の中流家庭育ちで、ホント子どもの頃クリスのいないゴーディみたいだったのです。→要は、イジメられっ子ね。)

ところで、この作品何度も観ているのだけれど、今回の鑑賞の経緯はちょっと変わってた。ロクに映画を観ない妹が「これ、皆に勧められるけど観た事ないんだよ」とビデオ屋で発言したので、一緒に借りてきて、夕ごはんを一緒に食べながら観たのである。
そのせいだったのかなあ。今まであまり意識していなかったのだが、改めて見て印象に残ったことがある。それは、ホンの少ししか出演シーンはないのだが、ゴーディの死んだ兄、デニーの存在だ。
私は長女気質だ。他はともかく妹だけは私が守ってやろうと思っている。親も、親戚も、恋人も、いたって対等な関係を望む私だけれど(庇護を受けるのも守ってやるのも嫌。)彼女に対してだけは違う。すごく可愛いし、根本的に頭のいい子だと思う。だからこそ、「おねえみたいに勉強できないし、難しいこと分かんない」なんて言わず、彼女にはもっと自信もって欲しい。この気持ちを、完全に表現しているのが「デニー」だったわけだ。もちろん私はデニーほど出来はよくないけどね。
優しく、誰からも好かれ、優秀でスポーツも出来て、誰より弟の才能を信じているデニーをにじみ出るような温かさと、何物にも崩されない強い笑顔とともに演じていたのは、若き日のジョン・キューザック。そういえばこのキャストの中、(伝説となったリバー・フェニックスを除いてだけど)最も上手く年とった。彼を見てると何故か楽しくなって安心できる。

それにしても、いつ見てもT-shirts&Jeansという、アメリカの少年の正装(且つ戦闘服)を身に付けたクリス役、リバー・フェニックスの存在はやはり奇跡的だ。裏切られ、憎しみや苦しみを一身に背負い、それでもどこかで人を信じたい、と願う少年。諦めることを知ってしまった「大人」な少年の美しさ。男の子って不思議な生物だ。女の子たちは、先に「オトナ」になってしまうけれど、本当に「大人」になってしまった男の子には決して敵わないんだよね、きっと。この作品の静かで抑制のきいた情感と相まって、見るたびにグっとくる。
友情を謳いあげるわけでなく、静かに静かに見せられる「最後の少年時代」。この時期のロブ・ライナー、ホントに視線があたたかくて、いい作品とってたんだよね。
「鹿のことは誰にも話さなかった」「戻ってきたら、街が小さく見えた」「クラスが離れ、そのまま話すこともあまりなくなった」オトナになったゴーディ=Writerのセリフも、ひとつひとつが痛くて切ないんだけれど、抑えに抑えて、クライマックスに向かっていく。そして、美しいラストシーン。立ち上がり、部屋を出て行くWriter。流れる「STAND BY ME」。あの頃と同じくらいの年の子どもたちが、陽射しの中を駆け回っている・・・

「・・・という映画でした。どうだった?」エンドロールを見ながら、感動を抑えて横目で妹に聞くと、普段と変わらずニコニコしながら「話は最初でわかってるんだね。でもなんか、男の子は楽しそうでいいね」と、映画ファンからは総スカン喰らいそうなチープなコメントを発していた。妹よ、あんたのそういうトコが好きなんだよ、おねえは。  (2003.6.14)

 
スティング (The STING)  [1973.米]    ☆☆☆☆☆

監督:ジョージ・ロイ・ヒル

STORY:1936年のシカゴの下町。しがない若詐欺師フッカーが仲間たちとが騙し取った金は暗黒街の大物・ロネガンの金だった。怒った組織は、仲間の一人を殺害。彼の復讐を誓ったフッカーたちは大物詐欺師のヘンリー・ゴンドーフ(でも今は第一線から退き、酒浸り)を頼る。その道のプロを集めて、大掛かりな復讐作戦を開始することに!ということで、ロネガン相手に一世一代の大バクチを企てる彼らだが、フッカーを追う悪徳刑事にゴンドーフを追うFBI、ロネガン側が仕掛けた謎の殺し屋も絡んできて・・・? 

CAST:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショウ、チャールズ・ダーニング、アイリーン・ブレナン、レイ・ウォルストン

大満足!やっぱり最高にチャーミングな古き良き作品だ。スコット・ジョプリンの「エンターテイナー」に乗せて、さあ、楽しいコン・ゲーム(騙しあいっこ)の始まり始まり。スキップのような楽しいリズムの展開にワクワク、どきどき、ニヤリの連続。こういうステキな作品があるから、古い映画の再見ってのもやめられないわけで。

エピソードごとに挟み込まれるタイトルも洒落っ気いっぱい。衣装やダイアローグ、ひとつひとつがとにかく完成されてて、最高に楽しい。間合いの妙もお見事。
で、何よりキャストがいい。とにかく何たって、ポール・ニューマンの大人の色気が余裕たっぷりで無茶苦茶ステキなのだ!最高にカッコイイんだ、これが。当時40代後半くらいなんだけど、枯れすぎず、ぎらつきすぎない感じでヘンリー・ゴンドーフ役は彼しかない!ってなもの。ジンで口をゆすぎ、酔いどれたふりをしてポーカーにノるシーンの、おかしくて色っぽいことといったら。「男が惚れる」って感じの、凄いスター・オーラ。好き好き、「不良」じゃなくて「反骨」な大人。マッチョな男臭さには全く興味を抱けない私なのだが、こういう骨太な男っぽさは大歓迎。なんてゆーか、あの深い青い目に薄く笑いを湛えてじっと見つめられたら、「あ、あなたについていきます」って性別問わず言っちゃうよな、って思わせてくれる。
レッドフォードも、今の皺だらけ「元色男」ぶりの哀しさが嘘みたいに、若い頃ってホントにチャーミングな若造役が似合ってるし(しかし端々でホントにブラッド・ピットと同じ顔で同じ表情だなあ・・・と感慨。上目づかいとぼそっとした口調が特にそっくりだ。いや、逆なんだけどね。)脇役も存在感たっぷり。とぼけた味わいの役者たちが、楽しそうに詐欺師やギャングを演じてみせる、その愛らしさといったら!(特にじいさんたちの使い方の楽しさが最高!)女が過剰に絡まないのもいい。

ふと思ったんだが、この映画が作られた1973年って、アメリカン・ニューシネマ台頭期だよなあ?その時代に、あえてドラッグもセックスも絡まない、妙にのんびりした1930年代を舞台にした犯罪映画を作ったわけだ。去りゆく古き良きハリウッドに、「ハロー・グッバイ」を告げるかのように。そう思うと、何か別の感慨もあったりする。

さて、例の「どんでん返し」に関しては、ありとあらゆる映像の詐術が出来るようになった現在となってはそんな驚きはない。でも、それで何が悪い?この作品がなかったら、色んな私の大好きな「ニヤリ」というオチをつけてくれるクライム・ムービーもなかった、ってことがよく分かるだけ。ハリウッドらしい“スター・パワー”、軽妙さと語り口の上手さ、音楽から視覚の遊びのリズム感まで、ほぼ完璧な出来なんじゃないだろうか。
ま、私にとってはそれ以上に、ロマンティックで可愛くて色っぽくて、とっても愛しいこの作品に出会えたってことが、それだけでもう、ただ素直に嬉しい。そういうものでしょ、いい映画って。ニヤリ。  (2003.8.23)
 
スティル・クレイジー (STILL CRAZY)  [1998.英]   ☆☆☆☆

監督:ブライアン・ギブソン

STORY:1977年、伝説の「ウィズベック野外フェスティバル」を最後に、人気ロックグループ、"ストレンジ・フルーツ"は決裂、解散した。神はロックを見放し、SEX PISTOLSを世に出したのだ・・・多分。あれから20年。メンバーたちは老いぼれ、冴えないオヤジとして生きていた・・・
ふとしたきっかけで、キーボードのトニーと、彼らをサポートしていたカレンを中心に、再び集まった仲間たち。「ウィズベック'98」をめざして再結成、ツアーをスタートした彼ら。しかしもちろん途は険しい。難航するツアーのなか、彼らは失われた「あの頃」を、逃したロマンスを、そして何より「ロックの魂」を取り戻せるのだろうか・・?

CAST:
スティーブン・レイ、ビル・ナイ、ジミー・ネイル、ティモシー・スポール、ハンス・マシソン、ジュリエット・オーブリー、ブルース・ロビンソン、ビリー・コノリー

ああ、だから音楽の奇跡を性懲りもなく信じてしまうんだよ、私は。そんなため息をついてしまった。あまりにも嬉しくて。
だって、老いぼれて、くたびれて、どうしようもなかった彼らが、ロックを通じて輝きを取り戻すのだもの。これが幸せじゃなくて何と呼べばいいのさ。確かにカッコ悪い姿も多々ある(いい加減さときたら・・・)。情けない姿も多々ある(カレンが奔走しているというのに、あのグダグダさ。小さいことばかり気にして、ケンカを繰り返す馬鹿共・・・)。そう、彼らはいい年して、何にも変われない男たち。・・・そう、これはまたも「男子」な映画なのである!!(←ツボ直撃・・・)

Voになりきれなかったレス(一番常識人であり、バンドを愛していて、だからこそ許せないことも多いという損な役回り・・・)も、恋する中年の哀愁全開のトニー(出ました、顔が既に情けない男スティーブン・レイ!)も、切ないんだけど何か可笑しい。必死で過去を取り戻そうとする男たち。なかでもレイのエピソードが一番印象的だった。過去という名の70年代ロックの亡霊に取り付かれた、寂しいVo。トイレの鏡に向かって、自分に自信をつけようと必死になる姿、元グルーピーのスウェーデン人の妻に振り回される姿、そして「オペラ座の怪人」と化して大観衆の幻影の中で大暴走してしまうレイの何て情けなくて可笑しくて切ないことか。
「マネージャーのようなこと」をし続けるカレン(ジュリエット・オーブリー、時として少女の雰囲気を漂わせる彼女にぴったりの役柄!)もまた、過去の亡霊に呪縛されている。バンドとブライアンを本気で愛していた彼女の、必死の戦い。彼女もまた、もう一度「あのとき」を取り戻そうとしている。
でも、やがて彼らは気づく。「その先にあるもの」。このままじゃ、「あのとき」と同じじゃないか・・・

解散したバンドがよりステキな未来に向かっているなんて、ありえないことだ、と正直思う。どんなカタチであれ終わってしまったものだからね。・・・って、そう思ってはいても、自分が青春を賭けた奴らには輝きつづけていて欲しい。バンドが好きだった人間は誰も感じているはずだ。
この映画を作った人たちはそんな「ロックを愛し、ミュージシャンを愛する者」が抱く思いの「リアル」を確実に掴んでくれている!ストレンジ・フルーツの連中はロックを最後まで捨てない。正確には、捨てられない。そりゃ、渋くキメたほうがずっとカッコいいさ。再結成グループの常套手段「アンプラグド」のほうがずっとかっこいい。でもさ。でもさ。やっぱりロックなんだよ。じゃないとダメなんだよ。ロックには神がついてるのだから。何でかって?ロックの神様も、こんな奴らを見放せないからに決まってるからじゃん!!

スティル・クレイジー。おっさんたちもまだまだイケるぜ。 (2003.12.6)
 
スリー・キングス(Three Kings)  [1999.米]   ☆☆☆

監督:デヴィッド・O・ラッセル

STORY:湾岸戦争終結直後、イラクがクウェートから略奪した金塊が隠された場所の地図を手に入れた4人の兵士。それを盗み出して、楽しい退役生活を送ろうとする彼らは、いざお宝探しへ。が、その金塊を探す間にフセインの弾圧に苦しむ反体制派のイラク人集団と出会ってしまったことで、事態は予期せぬ方向へ・・・

CAST:ジョージ・クルーニー、マーク・ウォルバーグ、アイス・キューブ、スパイク・ジョーンズ、ジェイミー・ケネディ、クリフ・カーティス、ノーラ・ダン、サイード・タグマウイ

このジャンル(軍事ブラックコメディアクション)で、このキャスト(男、男、男、美形ゼロ)。大作にしては地味、ミニシアター系にしては派手。行き場のない映画である(笑)。そんなわけで、見ない理由もなく見る理由もなく見てなかったんですけど・・・むむっ、なかなかの出来ではないですか。

今この時期に見るとさらに考えさせられる湾岸戦争ネタ。あくまでもここでも「笑い」が軍事への批判手段として生きてくる。途中からちょっと笑いが失速してしまったのは残念だが、その分シリアスな緊張感を保っておいて、ラストではしっかりニヤリとさせて好感がもてる。
女が頭を撃たれたシーンからの銃撃ワン・シークエンスの乾ききった銃声と間合い、コマ落としの使い方のセンスがまずお見事。一瞬引き攣ったような間合いが入ることで、発砲した瞬間の衝撃と血糊が跳ね返ってくるような感覚を抱かせる。マーク・ウォルバーグが拷問されるところの見せ方も上手い。マイケル・ジャクソン(ひゃひゃひゃ)、アメリカの「建て前」、死の話・・・を並べ立てておいて重油を流し込む。ぞっとするような事態が日常にヒョイとおりてくる感覚。デヴィッド・O・ラッセル監督、要注目。
ジョージ・クルーニーは、さすがの渋い「小」悪党っぷりを決めてみせる。しかしやっぱりというか、しっかりというか、登場シーンから女レポーターとヤってるとこが笑わせてくれる。求められるキャラクターに忠実な人だなあ。マーク・ウォルバーグ、初めてカッコよく見えた。「ガキ大将の友達に対しての愛情」と何ら変わらない仲間への愛情、家族への愛情を上手く出している。お馬鹿なコンラッド(今回何よりの発見、スパイク・ジョーンズがもうけ役とはいえイイ。「金塊(ブリオン)」を「ブイヨン」と聞き違えて??ってなってる顔と甲高い声がカワイイ)に対して「責任持ちます」っていうあたり、イイじゃないの。(アイス・キューブは3人にくらべるとちょっと弱い。及第点。)
何にしても・・・埃と汗と血にまみれるほどカッコよくなっていくこのキャスト。小綺麗だと違和感が出るスターたち。不思議だ。  (2003.6.16)
 
セッション9  (SESSION 9)   [2001.米]  ☆☆☆(+☆、ブラッド・アンダーソンへの期待を込めて)

監督:ブラッド・アンダーソン

STORY:石綿除去業者の社長のゴードンは、かつて閉鎖された「ダンバース精神病院」の改装という仕事を受けて工事を始める。作業員は5人。それぞれ、さまざまな思いが胸にある。ゴードンは子供が生まれてから家庭がうまくいっていない。彼の甥、新入りジェフはトロい、と皆にバカにされている。フィルは女性の問題でハンクともめ事が絶えない。マイクは作業よりも、残っていた患者の診察テープに心を惹かれている。・・・けれど淡々と作業をこなしていた5人。しかしそんなある日ハンクが姿を消し、彼らの思いと、この病院への奇妙な違和感が肥大していく・・・

CAST:ピーター・ミュラン、デビッド・カルーソ、スティーブン・ジェヴトン、ジョシュ・ルーカス、ブレンダン・セクストンV

小学生の頃、運動用具倉庫に入ると奇妙な匂いと埃に咳きこんだ。消石灰、土煙、ボロボロの雑巾、煮えついたドッジ・ボールのゴム、アスベスト(石綿)。それが入り混じった埃を体の中に吸い込んでしまうのが怖くて、私は一生懸命息を止めて、体育の準備をしていた。アスベストの有害性や、自分がハウスダスト性アレルギーを持ってることなんて、気づいてもなかったけれど、本能で恐怖を感じたのだと思う。

『セッション9』が怖いのは、それと同質の本能の恐怖に訴えてくるところだ。そして、その恐怖が蓄積されていくのだ。
廃墟となった元精神病院。無条件に怖い。疲れきった顔をした登場人物たち。なんだか怖い。診察=「セッション」の古いテープが回る。耳に残るキュルキュルという音が怖い。アスベストをはがすときの綿埃。息がつまりそうで怖い。効果音のような奇妙な音楽が唐突に流れ始め、時折小さな悲鳴のような音が入っている。・・・怖い。とにかく怖い。音で驚かすのは、ホラーの常套手段だけれど、この映画にはそういった「驚き」や「ショック」は一度もない。ただただ、ゆっくりと蓄積していく恐怖。
ハンクが新入りジェフに言うこんな意味のセリフがある。「いつかはここから抜け出さなきゃいけない。このアスベストが10年蓄積したらどうなる?お前が30になったとき肺でBANG!だ」
奇妙な出来事がそのアスベストのように静かに、静かに積もっていく。私も逃げ出したくなる。晴れた空。携帯電話。明るい音楽。なんでもない日常生活は続いている。けれど、怖い。息が苦しくなる。決して暗いシチュエーションだけではないのに、放たれる気配が圧倒的に暗く、不気味なのだ。新鋭ブラッド・アンダーソン、なかなかの力量。
見終わったあと、ずっと昔に吸い込んだ、体の奥に眠るアスベストの粒子が動き始めたように感じて、久々に本当にぞっとした。

おまけ。この作品、全然怖くなかったという人も多かったようだが、あくまでもこれは「ホラー」でなく「サイコ・サスペンス」。オバケやゾンビを期待されてもどうかと・・・。少なくとも『リング』が怖かったという人の趣味には合わないと思われます。 (2002.6.20)
 
千年女優   [2001.日本]  ☆☆☆

監督:今敏

STORY:かつて一世を風靡した伝説の女優「藤原千代子」。彼女の大ファンである映像監督の男と助手は、年老いた彼女の家を訪れてインタビューを始める。映画界に入ったきっかけ、恋、戦争、撮影秘話、思い出・・・ところがいつのまにか彼女が出演した映画のエピソードと彼女の経験が話のなかでクロスしはじめ、インタビュアー二人を巻き込んでの波瀾万丈の映像絵巻が展開されていく。
彼女の思いはただひとつ。「あの人に、会いたい・・・」

奇妙な魅力がある作品、それが今敏が監督した「千年女優」。フルアニメーション。本来アニメ嫌いな私がこの作品を見ちゃったのは、今敏の初監督作である前作の「PERFECT BLUE」が好きだったから。ほの暗い悪意のなかで、売れないアイドル女優を主軸に、彼女の神経の摩耗を見せながらアニメーションならではの「実写ではできないこと」をしれっとやってのけるサイコ・サスペンス(しかもR指定)。その独特の質感が実写映画とアニメすれすれの妙な面白さを醸し出していて気に入ったのだ。
で、今回の「千年女優」。さらにステップアップして、「映画してる」ので驚いた。どこまでが本当か分からない、という物語の中で、するりと自然に映画の中の小宇宙が展開されていく。現実と非現実の境の歴史絵巻。動きの付け方があえて「アニメ的」にしてある部分が特に美しく、人力車→坂を下る自転車、という一連の動きの躍動感と色の鮮やかさにはやられた!しかも音楽はP-MODEL平沢進によるテクノ!(余談だが、最近「おかあさんといっしょ」で平沢進の「地球ネコ」ってシュールすぎる曲が歌われててびっくりした・・・もしや隠れブーム?)あえて、リアルに描かないことで浮かび上がる「映画」という世界のリアル。これはなかなか見ものだ。
声優では山寺“七色の声を持つ男”宏一がさすがの上手さ。深く優しい暗い声が「鍵の君」を印象付ける。しかし、大きな問題点、主人公千代子の少女時代の造型と声がなー。いかにもアニメなのよ。あの出だしの違和感がなければなあ。もう一段階リアルを最初から掘り下げて欲しかった・・・。

それにしても、この監督の作品って「いかにもアニメ」な設定でありながら、キレイキレイな嘘で固まっていないのがいい。妙に汚れ感があって、生生しさがある。この主人公たちに対しては「●●萌え」なんてことを言わせる余地がないのだ。だって、人間っぽすぎるのだもの。そもそも「大人の女」が主軸に置かれるという時点で絶対的にマイノリティのアニメだしね。そういう面で、これは私の苦手な「こども」を美化する作品(あえて作品群を出すまでもないですね)、もしくは「こども」を思想家にでっち上げる大人向けアニメ(これも作品名はいらないですね)の逆位置のアニメ。映画好きの本来の意味での「オトナ」の鑑賞に堪えうる「映画」になっていると思う。(2003.9.25)

追記:http://www.asahi-net.or.jp/~xw7s-kn/で、監督の手作りHPが観られます。実は全く恵まれてない状態でこれだけの作品をつくったってこと自体、十分凄いかもしれない・・・。なんて書いてたらタイムリーに千年女優がオスカー・アニメ部門にノミネート?という噂や同監督の次の作品「東京ゴッドファーザーズ」の全米公開ニュース。現在、俄然注目され始めた。これは率直な感想として、大変うれしい。地味な一作目から注目して見ていた監督が活躍し始めるなんて、そんなにないですからね。引き続き観ていきたいです。(2003.11)

このページのトップへ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送