殺人の追憶 [2003.韓国] ☆☆☆☆
(+☆、韓国映画への偏見を取り払う出来でした)
監督:ポン・ジュノ
STORY:1986年、ソウル近郊の小さな農村。一面の畑では子どもたちがはしゃいでいる。その畑の用水路のなかで若い女性の惨殺体が発見された。その後も同じ手口の殺人事件が相次いで発生。地元の刑事パク・トゥマンはとにかく犯人を挙げられればいいとばかりに犯人らしき者たちに自白を強要しているが、なかなか思うようにはいかない。そんななか、ソウル市警から派遣されたソ・テユンがやってくる。二人はこの難事件に挑むことになったのだが・・・実話を元に描かれた、怖くて可笑しくて熱くて冷たい不思議なサスペンス。
CAST:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク、チョン・ミソン
想起するのは、多種多様な映画の、ある「瞬間」。「どこかで見た映画」にして「どこにもなかった映画」。その新鮮さに驚くばかり。
いきなりオープニング・クレジット部分の静謐な不協和音風サウンドには驚いた。「ソナチネ」〜「HANA−BI」の頃の北野武作品に付いてた久石譲メロディに似ている!(って思ったら岩代太郎が音楽担当!あれって日本人らしいサウンドなのかな?)あまり指摘されてないが、アタマのショットや笑いの入れ方、少女の使い方など、そもそも初期の北野映画に似てる部分が結構ある。それよりずっと「濃い」のだけれど。そういえば、ファーストシーン/ラストシーンのイメージの呼応に「赤目四十八瀧心中未遂」を思ったのは私だけでしょうか。虫取りシーンの子どもが登場して、異世界へ誘うなんて、まさにそうだと思うんですが。思い起こすのは日本映画だけでは、もちろんない。同時に昨年公開されたクライム・ムービーの佳作「NARC」にそっくりなショットがラストのシークエンスには入っていたり、観客に主人公たちの皮膚感覚の追体験を強いる画質・質感はクリストファー・ノーランの「インソムニア」を思い起こさせたりもする。普通なら、噴飯ものだ。こんなの借り物の演出じゃないか、って。
でも実は「どこかで見たことがある映画」には2種類あるのだと思う。他の作品の演出や質感を臆面もなく劣悪にコピーした作品と、さまざまの作品の魅力を巧く取り込み、オリジナルな迫力を生み出す作品。(そして前者は巷に溢れているけれど、後者はなかなかないのが実情。)この作品は紛れもなく、後者だ。というより、どこまで意図的なのか分からないのだが(インスパイアを受けるにしてはあまりに最近の作品なので、そこまでは影響されずに撮っているはずだと思う)近年の魅力的な映画の魅力的な部分、奥に眠る情熱の部分だけをきっちり取り込んでアレンジしてある。昨年見た「シティ・オブ・ゴッド」もそうだったのだが、そういった傑作のテイストを想起させながらもそれでいて紛れもなくオリジナルなものに仕上がっていて、素晴らしいのだからさらに驚く。
何より実際に起きた恐ろしい事件に不条理&ナンセンスな笑いを散りばめ、人の不可思議を徹底して追求し、簡単に答えを出さないストーリーテリングの妙、小物を見事に使いこなす(ドロップキック、焼き肉、スニーカー!)きっちりした演出の巧さが光る。ポン・ジュノ監督の才気は噂には聞いていたが、ここまでとは!(「吠える犬は噛まない」見逃したのが残念。)役者も素晴らしい。田舎者で、投げやりに暴力的に、ただ犯人を挙げることが目的で真相なんてどうでもよさげなソン・ガンホ(塩見三省似)演じるパク刑事。ソウルからやってきた、知的なエリートのキム・サンギョン(渡部篤郎+ちょっと仲村トオル入ってる気がする)演じるソ刑事。この二人の刑事の人生がクロスし、遠ざかっていく様が本当にスリリング。男たちの顔に不思議な感情が走る、その表情のかすかな歪みにぞっとさせられる。人という生き物、村という場所の奇妙さが、ふたりとその周囲の人物を見ているだけで皮膚に感じられてくる、その演出と芝居の巧さには舌を巻く。
実は韓国映画に相当偏見を持っていた私は、観る前には結構不安があった。初めて映画館で見た韓国映画がこれで、よかったと思う。独自のアプローチで描かれた、白々と冷たい現実、怖くて可笑しくてやがて切ない物語。ポン・ジュノ監督のそんな視線の向こうには、果たして一体何があるのか。今後の作品が楽しみな監督がまた一人増えた。 (2004.4.1)
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