CINEMA REVIEW 2004

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『さ』行の映画。

■殺人の追憶   ■シービスケット   ■スクール・オブ・ロック   

殺人の追憶 [2003.韓国]  ☆☆☆☆ (+☆、韓国映画への偏見を取り払う出来でした)

監督:ポン・ジュノ

STORY:1986年、ソウル近郊の小さな農村。一面の畑では子どもたちがはしゃいでいる。その畑の用水路のなかで若い女性の惨殺体が発見された。その後も同じ手口の殺人事件が相次いで発生。地元の刑事パク・トゥマンはとにかく犯人を挙げられればいいとばかりに犯人らしき者たちに自白を強要しているが、なかなか思うようにはいかない。そんななか、ソウル市警から派遣されたソ・テユンがやってくる。二人はこの難事件に挑むことになったのだが・・・実話を元に描かれた、怖くて可笑しくて熱くて冷たい不思議なサスペンス。

CAST:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク、チョン・ミソン

想起するのは、多種多様な映画の、ある「瞬間」。「どこかで見た映画」にして「どこにもなかった映画」。その新鮮さに驚くばかり。
いきなりオープニング・クレジット部分の静謐な不協和音風サウンドには驚いた。「ソナチネ」〜「HANA−BI」の頃の北野武作品に付いてた久石譲メロディに似ている!(って思ったら岩代太郎が音楽担当!あれって日本人らしいサウンドなのかな?)あまり指摘されてないが、アタマのショットや笑いの入れ方、少女の使い方など、そもそも初期の北野映画に似てる部分が結構ある。それよりずっと「濃い」のだけれど。そういえば、ファーストシーン/ラストシーンのイメージの呼応に「赤目四十八瀧心中未遂」を思ったのは私だけでしょうか。虫取りシーンの子どもが登場して、異世界へ誘うなんて、まさにそうだと思うんですが。思い起こすのは日本映画だけでは、もちろんない。同時に昨年公開されたクライム・ムービーの佳作「NARC」にそっくりなショットがラストのシークエンスには入っていたり、観客に主人公たちの皮膚感覚の追体験を強いる画質・質感はクリストファー・ノーランの「インソムニア」を思い起こさせたりもする。普通なら、噴飯ものだ。こんなの借り物の演出じゃないか、って。

でも実は「どこかで見たことがある映画」には2種類あるのだと思う。他の作品の演出や質感を臆面もなく劣悪にコピーした作品と、さまざまの作品の魅力を巧く取り込み、オリジナルな迫力を生み出す作品。(そして前者は巷に溢れているけれど、後者はなかなかないのが実情。)この作品は紛れもなく、後者だ。というより、どこまで意図的なのか分からないのだが(インスパイアを受けるにしてはあまりに最近の作品なので、そこまでは影響されずに撮っているはずだと思う)近年の魅力的な映画の魅力的な部分、奥に眠る情熱の部分だけをきっちり取り込んでアレンジしてある。昨年見た「シティ・オブ・ゴッド」もそうだったのだが、そういった傑作のテイストを想起させながらもそれでいて紛れもなくオリジナルなものに仕上がっていて、素晴らしいのだからさらに驚く。
何より実際に起きた恐ろしい事件に不条理&ナンセンスな笑いを散りばめ、人の不可思議を徹底して追求し、簡単に答えを出さないストーリーテリングの妙、小物を見事に使いこなす(ドロップキック、焼き肉、スニーカー!)きっちりした演出の巧さが光る。ポン・ジュノ監督の才気は噂には聞いていたが、ここまでとは!(「吠える犬は噛まない」見逃したのが残念。)役者も素晴らしい。田舎者で、投げやりに暴力的に、ただ犯人を挙げることが目的で真相なんてどうでもよさげなソン・ガンホ(塩見三省似)演じるパク刑事。ソウルからやってきた、知的なエリートのキム・サンギョン(渡部篤郎+ちょっと仲村トオル入ってる気がする)演じるソ刑事。この二人の刑事の人生がクロスし、遠ざかっていく様が本当にスリリング。男たちの顔に不思議な感情が走る、その表情のかすかな歪みにぞっとさせられる。人という生き物、村という場所の奇妙さが、ふたりとその周囲の人物を見ているだけで皮膚に感じられてくる、その演出と芝居の巧さには舌を巻く。

実は韓国映画に相当偏見を持っていた私は、観る前には結構不安があった。初めて映画館で見た韓国映画がこれで、よかったと思う。独自のアプローチで描かれた、白々と冷たい現実、怖くて可笑しくてやがて切ない物語。ポン・ジュノ監督のそんな視線の向こうには、果たして一体何があるのか。今後の作品が楽しみな監督がまた一人増えた。 (2004.4.1)

 

シービスケット (Seabiscuit) [2003.米]  ☆☆☆☆☆

監督:ゲイリー・ロス

STORY:1920年代の好景気が夢のように終わった後。1938年、大恐慌時代のアメリカで人々が夢を託したのは、大統領でも銀幕のスターでもなく、かつては完全に見捨てられたように売られていた、一頭のサラブレッドだった。その名はシービスケット。自動車ディーラーとして富を築いたのち、家族を失ったハワード。大恐慌のために家族と別れ、地方競馬の騎手となったレッド。自動車の普及で職を失い、馬の調教師として各地を点々とするカウボーイのスミス。3人の男が、一頭の馬と出逢ったとき、その物語は動き始めた・・・

CAST:トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー、エリザベス・バンクス、ウィリアム・H・メイシー、ゲイリー・スティーブンス

大丈夫、あなたはひとりぼっちじゃない。だからきっと、明日からまた走っていける。自分の足で踏み出していけるよ。
そっと背中を押してくれるそのメッセージの何と優しいこと、あたたかいこと。ずっとこのまま、浸っていたい。そう思わせてくれた、本当にやさしい映画。思い出すと、体の奥がゆっくりと温まってくるような、そんなやさしさに満ちた映画。土が、緑が、馬が、役者たちが、全てが美しい。癒し、という言葉ではcheapに過ぎる。けれど映画に抱き締められているかのようなこの至福感を何と表現するべきなのだろう、言葉が浮かばない。何だかもう、どこにということはなく全てに溢れる優しさと美しさに心を打たれてしまった。ゲイリー・ロスは前作『カラー・オブ・ハート』をやった人だけあって、さすがセピア・モノクロや画面の切り替え、抑えのきいた演出が抜群に巧い。さらに、前作に多少あった教訓じみた部分や“器用さ”が目立つ部分を見事に解消し、映像の力を信じた演出に徹していて、それがとにかく素晴らしい。何より躍動するしなやかな脚で疾走する馬に、羽のようにひらりと跨った騎手の姿は詩のようなダイナミズムとセンシティビティが融合していて、もう見ているだけで泣きそうになる。なんて美しいんだろう!

テーマはいたってシンプル。孤独を情熱に転化させたことで、再生していく男たちの物語。面構えも素晴らしい3人の俳優が演じるのは、孤独を諦念に変えて生きつつあった、元富豪のハワード。(ジェフ・ブリッジスの笑顔の素晴らしい温かさ!)孤独を怒りに変えて生きてきた騎手レッド・ポラード(伸びやかに感情の揺れ動きを伝えるトビー・マグワイア!)、孤独を自身の殻に変えて生きることに徹してきた、調教師スミス(クリス・クーパーの「動物と対話する」表情の豊かさ!)の3人が、一頭の名馬「シービスケット」との出会いをきっかけに、孤独を情熱へとゆっくり転化させていく。そのゆったりとした思いの深さが愛しい。例えば群衆を相手にシービスケットへの思いを語るハワードが、言葉を重ねる毎、かつて最も輝いていた自動車セールス時代以上にイキイキと変わっていく瞬間。そんなハワードに初めて見せる、ポラードの信頼に溢れた、掛け値なしの感謝と安心の眼差し。話題に出されてちょっと照れたように、困ったように浮かぶスミスの笑顔。映像と役者とドラマの素晴らしい融合に、感動で震えてしまった。
物語のボリューム的に2時間半では厳しかったかな?というところと、時代の期待を背負って勝たなきゃいけない状態の精神的な厳しさが弱いといえば弱いのがちょっと残念かな・・・とも感じた部分もあったのだが、それが逆にシンプルなテーマを純化させていて、それすらも今思うとよかったように思える。

繰り返し語られる「未来」という言葉が印象深い。夢が拡がって、そして消え去っても、時は流れ、未来へとつながっている。未来の破片の輝きは、そんなに簡単に力を失わない。だから、もう一度やっていけるのだ。そのときに、そっと背を押してくれる何かがあれば・・・
「シービスケット」は奇跡の馬だった。けれど、きっと全ての人それぞれにとっての「シービスケット」はいるんじゃないだろうか。ガラクタや寂しさに紛れて、気づかないかもしれないけれど。だから、誰もがもう一度「未来」を信じてみてもいいはずだ・・・そんなメッセージが伝わってくるよう。押しつけがましくなくて、温かくて、ああ、ホントになんてやさしい眼差しの映画なんだろう!

行き場を失った男たちが、忘れかけていた自らの才能を目覚めさせ、やがて未来を自らの手に取り戻す。そこにあるのはまさに希望。うん、やっぱりこの監督がいる限り、大丈夫。ハリウッドの良心も、アメリカという国への希望も、決して消えない。  (2004.2.15)

 

スクール・オブ・ロック (School of Rock) [2003.米]  ☆☆☆☆☆

監督:リチャード・リンクレイター

STORY:ロックを愛する男、デューイは行き詰まっていた。バンド・バトルに出てメジャーになり、賞金獲得で世界は俺のモノ!・・・だったはずなのに、あっけなくバンドをクビになりアパートの家賃は滞納し続ける不甲斐ない日々。なんでい、皆俺を何だと思ってるんだ、しかし金がない、どうしよう。考えたデューイはふとした思いつきで親友の名を語り、臨時教員として名門小学校に乗り込み・・・ひょんなことから優等生な子どもたちと一緒にバンドを始めることを決意した!

CAST:ジャック・ブラック、ジョーン・キューザック、マイク・ホワイト、サラ・シルバーマン

好き好き大好き。ジャック・ブラック最高!スクール・オブ・ロック最高!とにかくキモチイイ映画。これは大ヒットも当然でしょう!立ち見もぎっしり、まるでライブ会場のような映画館内はエンディングまで笑いが絶えない状態。ああ、こういう映画に出会えるのって幸せだなー。
笑って泣けて、何よりロックの楽しさとジャック・ブラック(以下JB。自称、らしい。本家JBのジェームス・ブラウンにケンカ売ってますよね?)の凄さを堪能できる素敵な映画だ。JB、ホントに凄いことになってます。激しくうねる眉毛。無駄なまでの歌の上手さと派手派手しいシャウト。オモチャみたいな走り姿。ユルい体型で飛び跳ねる心意気。彼しかありえないパフォーマンス。小利口なガキンチョどもよりもずっとアホでガキンチョなキャラをイキイキと見せ、大暴走するJBを見ているだけでも大興奮。

って実はJBに隠れがちだが、演出・脚本が抜群のセンスであることにも注目して欲しい、とも思う。タイトルバックから絶品!JBの出世作「ハイ・フィデリティ」を思い出させるようなライブハウスの照明やフライヤーがスタッフロールになっていく様が既にワクワク感でいっぱい。そのワクワクがラストまでだれることなく引っ張られていく力強さ。あの真面目なリンクレーターがこんなに笑いのセンスを心得てたんだ・・・とニヤニヤさせる画面つなぎと、絶妙な「外し」を心得たリズムのよさがまたキモチイイ。重要なシチュエーションでラモーンズを流してこの映画の元ネタが「ロックンロール・ハイスクール」であることを隠さないあたり、音楽好きをニヤつかせるセンスに痺れた。

そう、この作品は単純明快爽快な物語でありながらトリヴィアルなロック小ネタたっぷりの脚本も素晴らしい出来なのだ!子どもたちの会話の中に微妙な女性ドラマーの名前としてメグ・ホワイトが出てくるあたり、ジャック・ブラックとマイク・ホワイトを合わせた名のジャック・ホワイトがやってるホワイト・ストライプスへの目配せ?なんて思わせたり。こういうネタで決して70年代ロック偏愛だけでなく今の音楽シーンにも目が向いているところが素敵なのだ!子どもたちのキャラクターがイキイキ描写されているのも嬉しい。「モテないからバンドは・・・」と遠慮するローレンス君や鏡の前でアコギをロックに構えてポーズを決める練習をするザック君の姿にはホロリとくるものが・・・格好悪いけど、熱い気持ち。そうなのだ、それがロックの生まれる瞬間なんだ!と狂喜してしまう。生意気な優等生でマネージャーのサマーちゃんが「ゲフィンに入れ込んでる」なんて台詞が出てくるのも素晴らしい。演奏はもちろん凄いのだけど、それだけの器用さにとどまらぬ楽しさでいっぱい!
本人もデューイの弱虫なルームメイトの親友という役で出演のアメリカのクドカン(ワカさん命名)こと、脚本担当のマイク・ホワイトは今後要注目。見た目、「ハイ・フィデリティ」のもう一人の店員トッド・ルイーゾっぽい薄目のボンクラ顔でそれがまたいい味出している。

なんて、色々書いてみたものの、この作品見るには難しいことは考えなくて良いだろう。見終えた奴らはみんな心で叫んでるはず。元ネタなんて知らなくてもこの一言で十分でしょう。ロック最高!(2004.5.3)

 

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